霧ヶ峰・観音沢研修

登山ガイドにとって、その評価が決め手となるほど重要な解説技術。今回は、深田久弥の日本百名山で、遊ぶ山の代表とされる霧ヶ峰の最も美しいコース・観音沢で開催。

初日は、生憎の雨模様。そこで、事前学習として尖石考古館・諏訪大社下社・万治の石仏・神長官守矢氏資料館などを訪ねる。尖石考古館では、霧ヶ峰の歴史の始まる頃のこと、黒曜石に因む事柄を学ぶ。
縄文時代の人々の石器を中心にした生活、2体の国宝の土偶や石棒に見る精神世界、茅葺の家に通じる竪穴式住居。そして、観音沢で何百年も続けてきた下社の御柱の伐り出し。諏訪大社の大祝諏訪氏と神長官守矢氏の関係や守矢氏の祀るミシャクジ様と御頭祭。全てが、明日歩く観音沢と関係しています。

 宿は、霧ヶ峰の歴史には欠くことが出来ない重要な山小屋ヒュッテジャヴェルです。尾崎喜八がフランス人登山家エミールジャヴェルに因み名付けたと言う歴史ある山小屋です。その物語を知ることもガイドの知識欲を満たします。食堂には、先代高橋達郎氏の文の師であった尾崎喜八直筆の美しい詩文や画の師であった熊谷守一の絵が飾られています。

 明くる日は、予報通りに雨は上がり、登山口大平から歩きはじめます。美しい落葉広葉樹の森を抜けて行きます。ミツデカエデ・アサノハカエデなど多くのカエデ科や大きなカツラ、トチノキ、ケヤキが見られます。上流域では、御柱になりそうなモミやミズナラ、ブナも見られます。

途中、ショウキランの群落に出会いました。数年前までは、この付近に多くのシロバナショウキランも自生していましたが、重機が入ってしまい全滅。以後は見ていません。シロバナショウキランは、今井先生の発見された霧ヶ峰の固有種です。このシロバナショウキランもそうですが、このコースにはチョウセンミネバリやブナなど霧ヶ峰では他に見られない貴重な植物が見られます。

 途中にある屏風岩の千手観音や右股にある千手観音菩薩と彫られた石など史跡もあります。旧御射山社の桟敷跡やかわらけ・黒曜石などにも歴史を感じます。

 まさにガイドの解説する要素が盛りだくさんです。このコースを歩き、新人のガイドさんには多くの事を学んでいただきました。ベテランガイドさんにも、改めてこのコースの素晴らしさを感じて頂けたことと思います。
 ただ、いくつかの問題点にも気づかさました。前回も多く見られましたが、チョウセンシマリスが繁殖しています。数年前までは、この辺りにはニホンリスもいましたが最近は見かけません。チョウセンシマリスも可愛いのですが、外来種です。困ったものです。

 この観音沢コースは、私はガイドを始めた頃に見つけ出したコースですが、他の登山者に出会う事がない静かな素晴らしいコースです。歴史や植生も素晴らしく、まさにガイドと共に歩いてこそ価値あるコースだと思います。しかし、一般の不慣れな登山者にはリスクが高いコースであることも事実です。途中、屏風岩が下流側の崩落に続き、上流側が崩落していました。壁中央部に安置されている千手観音は無事ですが、この付近は非常に危険です。くれぐれも崩落した岩の上を歩くとか、岩壁の下に入るようなまねはしないでください。
また、渡渉も何か所ありますので丸木橋での転倒にも注意が必要です。上部の細い急な箇所でも転落に注意が必要です。

このコースを歩いてみたいと思われた方は、ぜひ当会のガイドにご依頼下さい。
安全に楽しくエスコートさせて頂きます。
最適期は、この6月と10月の紅葉期です。

上野 真一郎 (自然ステージⅡ・山岳ステージⅠ)

投稿者: smnga2006

<NPO静岡山岳自然ガイド協会> 2006年、静岡県に新しい山岳及び自然ガイドの組織として 公益社団法人 日本山岳ガイド協会に認定されました。 私達は、プロのガイド組織として、水準の高いガイドの育成と 野外活動を愛好する方々に、安全で楽しい自然体験を提供して ゆこうと思います。 <当会の目的> この法人は、一般登山者、一般登山希望者に対して、山岳及び自然 ガイドに関する事業を行い、安全で楽しい登山活動と自然体験活動の 普及、発展に寄与する事を目的とする。