研修の概要
- 研修の目的:
①「春の女神」ギフチョウの観察(石砂山のフィールドワーク)
②ガイドに役立つ蝶の知識と情報の提供(研修室での机上レクチャー)
- 開催日時:2026年4月13日(月)
- 場所:神奈川県相模原市緑区藤野町 石砂山と篠原の里センター
- 参加人数:7名(講師1名含む)
篠原の里(しのばらのさと)
石砂山(いしざれやま)
神奈川県相模原市緑区に位置する標高 578m の山。
<山の名前の由来>
礫岩(れきがん)が風化してバラバラになった小さな石や砂を古語で「ざれ(砂礫)」と呼んだので、「石がざれる(砂礫化する)山」として「石砂山(いしざれやま)」と名付けられたと言われています。
研修内容
本研修の目的
山や草原などのフィールドをガイドしていているときに、多くの蝶に出会うことがあります。華やかで目立つ蝶はお客様からもその名前を聞かれることがしばしばあります。本研修は、単なる蝶の名前の紹介に留まらず、その種に関する話題や、季節や標高によっての違いや、ホストとしている植物などの環境要因とも絡めてその生態系に迫り、総合的に自然や環境を考え、それを皆さんに提供できることをねらいとして設定しました。
研修内容
今回、フィールドワークの対象としたギフチョウは、黄色と黒の模様の美しい蝶であり、標高500m程の地域では4月上旬のみに発生する蝶で、カタクリや山桜などの花で吸蜜する姿は、まさに絵になる光景で「春の女神」と呼ばれています。日本の固有種であり、かつては日本全国の里山に広く分布していましたが、現在はその生息地は極めて限られており、場所によって天然記念物にも指定され、保護されている大変、貴重な蝶です。神奈川県ではかつて丹沢山域にも生息地がありましたが、現在では藤野町周辺の里山に限られています。石砂山はその産地で遭遇する確率が高く、さわやかな森の中で「春の風物詩」を堪能しながらギフチョウを探しました。
カタクリの花とギフチョウ
蝶は季節や天候に左右される生物です。特にギフチョウは陽差しがある時にのみ飛翔し、曇るだけで姿を消します。また発生時期も4月初旬の10日カタクリの花とギフチョウほど、翔ぶ時間帯も午前中のみに限られ、春の不安定な気象変化の中で、さらに温暖化の加速によって季節が前後する現代の地球環境下において、ドンピシャでその条件に合わせるのは難しいものがあります。
下見をした4月8日は快晴無風の好条件で、数頭(蝶は1頭、2頭と数える)のギフチョウに出会えましたが、その2日後に春の嵐が吹き荒れて、下見からわずか5日後の当日は、花が散り、新緑が芽吹く初夏の山の光景に一変していました。天気も9時までは晴れだったものの、その後、曇りに転じ、残念ながらこの日は1頭も見ることができませんでした。途中ですれ違った年配の女性ハイカー達に「先週は乱舞していたのにねえ」と言われ、さらに悔しい思いが募りました。
ギフチョウの幼虫は、ウマノスズクサ科のカンアオイを主な食草としています。木漏れ日が差す、広葉樹林帯の林床に生えるこの植物の葉の裏側に成虫は産卵します。その卵は球形で表面には薄緑色の光沢があり、拡大すると「真珠」のように見えます。成虫に遭遇できなかったので、みんなカンアオイの裏側を「真珠」「真珠」と言いながら、葉をめくって探しまくりました。傍から見るとそれは奇妙な光景です。
しかしこれも不発。人がよく通る山道沿いには産卵しないか、人通りが多いので盗掘されてしまっていたのかもしれません。
ギフチョウが舞う木漏れ日指す尾根道
幼虫の食草 カンアオイ
葉の裏に卵を探す
この日、主目的だったギフチョウには出会えませんでしたが、春の里山を代表する「ツマキチョウ」「ミヤマセセリ」「コツバメ」「スジグロシロチョウ」を見かけることはできました。
ミヤマセセリ
ツマキチョウ
スジグロシロチョウ
山から下りてきてからは、廃校になった小学校を利用してNPOが運営する「篠原の里センター」で、研修を行いました。パワーポイントソフトを使って、以下の内容について説明しました。
篠原センター(小学校跡地)
- チョウの魅力と分類
自分と蝶の出会い、蝶と蛾の違い、名前の意味、食草と食樹
- ギフチョウについて
その特徴、近縁種のヒメギフチョウとの見分け方と棲み分け、春の代表的な蝶
- ガイド時によくみられるチョウ
これだけは知りたい高原のチョウ10種
- 高山チョウ
高山でみられる氷河時代の遺産
- 渡りをするチョウ
よく見られるアサギマダラは「スーパーバタフライ」
- チョウの地政学 温暖化や台風の影響
温暖化で北上している蝶、台風に紛れて訪れる南方の蝶
このレクチャーでは、すべての蝶を覚える必要はない。ガイド時によく見かける種のみ覚えたり、ある種の蝶の話題、その地域に絡む蝶の特性を確認したりするなど、事前に知識や情報を蓄えておけば、山行がより豊かなものになり、「今まで見えなかった景色」が「見えるようになっていく」というコンセプトで行いました。
最後に実際のガイド場面で役立つように、蝶のカードを用意しました。これはガイド時によく出会う、「高原の蝶」「高山蝶」「森の中の蝶」で、その代表例をそれぞれ10種ずつ用意したものです。併せて、それぞれの蝶の幼虫の食草・食樹も10種ずつ用意し、それを表裏貼り合わせると、蝶とその蝶の食草・食樹がわかるようにしたものです。それをパウチしてお土産としてお持ち帰りいただきました。図鑑としても、カードゲームとしても、現場で活用できると思います。
今回、初めて行った蝶に関する研修でしたが、参加者の皆さんに大変満足していただけ、充実した講習になりました。