2024年9月SMNGA研修 『上高地の時空を散歩する』

研修の概要

  • 研修の目的:
    外部講師を招いて、「上高地の時空を散歩する」をテーマに、上高地と周辺の山々の成り立ちやガイドトークのコツを学ぶ。
  • 開催日時:2024年9月25日(水) 10:00~26日(木)14:30
  • 場所:上高地(大正池~ワサビ沢付近)
  • 参加人数:13名

研修内容

技術士事務所「地久学舎」の富樫均さんを講師にお迎えして、天気に恵まれた上高地で2日間の「時空散歩」をしてきました。
富樫さんにはこれまで4回、長野県内各所で地形・地質に目を向けたガイドツアーを考える研修をお願いしてきました。普段山を歩いていても目に留めない場所を地学の目線でピックアップし、ガイドに役立つ内容を噛み砕いて解説いただけるので人気の研修です。

穂高連峰の展望地では、穂高連峰の岩山はどのようにできたか説明を受けました。
穂高がかつて火山だったとは現在の姿から想像が難しいですが、175万年前に巨大噴火を起こし、噴火と同時に地表が陥没していく巨大なカルデラ火山でした
穂高連峰は噴火しながら大量の火山灰がカルデラ内に溜まり、熱によって溶結した溶結凝灰岩が約5000m隆起し侵食され、硬い岩峰が残ったものです。
梓川の河原には多種類の石ころが転がり、溶結凝灰岩の観察もしました。

穂高連峰を見ながら巨大カルデラ火山を想像します
溶結凝灰岩を河原で観察

梓川沿いのほとんど平坦な散策路を歩いて大正池に着くと目の前にドーンを迫る焼岳の景色を見ながら上高地の成り立ちの解説に耳を傾けます。
1万2000年以前には焼岳火山群は存在せず、古梓川は岐阜側に流れていました。
1万2000年前に焼岳火山群の噴火によって古梓川は堰き止められ、古上高地湖ができ、やがて決壊して山岳域に珍しい平坦地が出来上がりました。そして長い年月を経て現在の上高地が出来上がっています
そんな上高地の成り立ちを知らずに観光に訪れる人がほとんどだと思いますが、学ぶことで過去のダイナミックな変化を想像し、現在の緑豊かな森と岩山の風景に魅せられ、未来の上高地を考える機会になりました。

焼岳を見ながら上高地の成り立ちの説明を受けます
焼岳と大正池

ウェストン碑がはめ込まれている滝谷花崗閃緑岩は約140万年前にできたもので、穂高連峰を作っている溶結凝灰岩と共に桁外れに速い速度で隆起して地表に出てきた世界一若い花崗岩といわれています。140万年前が世界一若い、というすぐに納得し難い年代の考え方ですが、地学は億単位の話、慣れが必要です。

ウェストン碑がはめ込まれている滝谷花崗閃緑岩の説明をする富樫氏

そんな億単位の岩が露頭しているところも観察しにいきました。
日本列島の土台となる約2億年前の深海底に堆積した泥岩が徳本峠分岐から少し徳沢寄りに見られます。これまでとは違う薄く剥がれるように割れる岩です。

2億年前の日本列島の土台となる泥岩の路頭

最後に自然状態の梓川が見られる場所へ。本来の上高地の姿と説明を受けました。現在の上高地は梓川沿いが広く護岸工事されています。観光のための宿泊施設や散策路、管理道を維持する必要があるためです。
観察したポイントは土砂が流れ入り、中州が作られたり流されたり、川の流れが変わったりと人の手が加わっていない唯一の場所だということでした。上高地が1万年後、10万年後自然のままならどんな変化をしていくのか、護岸工事がされていくのか、未来を想像しながら研修が終了しました。

工事など人の手が入っていない唯一の自然状態の梓川

地学の話は一度聞いただけではなかなか理解が難しいところがありますが、ガイドツアーに活かせるように質問、疑問を講師にぶつけ、充実した「時空を散歩する」研修になりました。

野鳥を中心としたガイド 研修

研修の概要

  • 研修の目的:
    夏山ガイドに使える野鳥を中心とした自然ガイド
  • 開催日時:2024年5月24日(金) 〜25日(土)
  • 場所:上高地周辺
  • 参加人数:8名

研修内容

会では初の野鳥を対象とした自然解説研修。皆さんがよくガイドされると思われる上高地で研修を行いました。上高地は奥穂高岳や焼岳などの百名山のベースとして多くの登山客が訪れますが、探鳥地として多くのガイドブックで紹介されています。実際に5月から8月にかけて多くの野鳥がさえずり、都市部で見られる鳥から亜高山帯に特化した鳥まで多くの野鳥が観察できます

研修2日目。小梨平の朝

今回の研修は2日間かけて行いました。2日かけた理由は、日中だけではなく夜間に鳴く鳥がいるため、それらの鳥を確認するためにテントを張り、夜間聞こえてくる鳥の鳴き声を確認してもらいたいのが一点。もう一点は、野鳥は早朝活発にさえずる傾向にあるため、早朝から研修を開始し、より多くの野鳥をガイドの皆さんに確認してもらいたいことがありました。実際に夜はヨタカジュウイチなど夜間にも鳴く鳥の鳴き声が聞こえてきました。また早朝は多くの鳥のさえずりが上高地の爽やかな朝に響きわたり、オオルリキビタキなど人気の鳥を目視することができました。

研修の様子


幸いなことに2日間とも天気に恵まれ、上高地周辺は絶好の散策日和になりました。小梨平を出発し、河童橋を渡って岳沢湿原へ。岳沢湿原周辺の林内ではウグイスカケスなど名前は聞いたことあるけど普段あまりじっくり観察しない鳥たちを観察し、水辺ではオシドリマガモなど、夏の上高地を代表する鳥たちを観察しました。

岳沢からの眺め

岳沢湿原を観察した後は岳沢方面に登り、標高を上げて鳥類相の違いを体感しました。鳥は標高が高いほど数は少なくなる傾向にあります。しかし標高が上がり、植生環境が変わると、観察できる種も変わってきます。ホシガラスやイワヒバリはその代表ですが、今回は見ることができませんでした。その代わり、湿原周辺では確認できなかったコマドリルリビタキといった鳥たちの鳴き声が確認できました。

実際に野鳥を観察しながら山のガイドをするのはかなりの時間立ち止まらないと難しいです。そのため、野鳥の解説をしながらガイドをするには、鳴き声を覚えることが重要になります。今回はガイドに使える種の鳴き声を中心にレクチャーし、野鳥を目視するだけではなく歩きながら解説をするノウハウを身に着けてもらいました。

【今回確認できた主な野鳥】

オオルリ
キビタキ
オシドリ

5月12・13日 春の上高地「自然解説研修会」

5月中旬上高地は春まっさかり。高山の残雪はだんだん減り、間もなく夏山シーズンを迎えます。

春真っ盛りの上高地

今年の上高地の雪解けは早く、よく探すとカラマツ林の日蔭に少しだけ残雪を残すのみ。

夏の登山シーズン真っ盛りになると、上高地ターミナルでバスを降り、涸沢、槍・穂高をまっしぐらに目指し、上高地はただ通るだけという登山者は多いです。

ガイドの中でも、『横尾から先が本番なので、そこからはお客様にいろいろ話すのですが、上高地は通りすぎるだけなのであんまり説明するものがないんだよ』という者は正直多いと感じています。

約10㎞、見るべきポイントはいっぱいあります

今回はそんな上高地の見どころを、ガイド同士で見つけ合う研修を行いました。

河童橋で、ひとり物思いにふけるサル吉君
上高地の基部を構成するジュラ紀の地層

上高地には日本列島がまだ大陸とくっついていた時代の地層から、槍穂高超火山がカルデラ噴火した際の溶結凝灰岩層、世界一若い花崗岩とされる滝谷花崗閃緑岩など、いろいろな地層が見られます

ガイド同士、意見を交わします

ガイドは人が暮らした歴史、動物、植物、気候、風土など、様々な情報をインプットして、上高地をお客様にご案内します
これからの季節、いつもとは一味違う目線で上高地を楽しんでみてはいかがでしょうか。